Microsoft 365 Copilot のエージェント強化が変える資料作成の未来
2025年11月18日、Microsoftが開催した「Ignite 2025」で、Word・Excel・PowerPointの資料作成をAIが自律的に代行する新機能が発表されました。この発表の真意は何なのか、そしてこれまでとどう違うのかを詳しく解説します。
https://news.microsoft.com/ignite-2025-book-of-news/ja
発表内容:Office エージェント時代の到来
何が発表されたのか
今回の発表では、以下の3つの重要な拡張が含まれています。
1. Office 専用エージェントの登場
Microsoft 365 Copilot Chat から、Word・Excel・PowerPoint に特化した専用エージェントを呼び出せるようになります。これまでは「Copilot Chatで何かできるかな」という曖昧な状況から、「Word/Excel/PowerPoint向けのプロフェッショナルなエージェント」へと進化したということです。
2. 各アプリ内の「エージェントモード」
Word・Excel・PowerPoint 各アプリ内に「エージェントモード」が統合されます。これにより、AIがマルチステップで編集・整形・分析を何度も繰り返し実行できるようになります。
3. Copilot Studio との連携強化
企業独自のカスタムエージェントが、Officeドキュメント(Word・Excel・PowerPointファイル)を自動生成・更新する機能も新たに追加されました。
実際にできるようになること
Excel の場合
ユーザーが「過去3年分の売上データから、部門別の傾向を分析して、必要な表とグラフを作成してください」と指示すると、エージェントが以下を自律的に実行します。
- シート構造の設計
- データの整理と関数の設定
- ピボットテーブルの作成
- グラフの作成と書式設定
PowerPoint の場合
Copilot Chat に「営業部向けに第4四半期の成長戦略の提案資料を作成」と投げると、Office Agent が動きます。
- Web 調査や既存ファイルを参照
- スライド構成の提案
- 本文とビジュアル要素の作成
- デザイン調整と品質チェック
Word の場合
レポートや提案書のドラフト作成から、要約、章立ての見直しなど、AI が繰り返し改善を行い、ユーザーは会話で追加指示・修正を出すだけで完成に近づけられます。
これまでの Copilot との決定的な違い
従来の Microsoft 365 Copilot
これまでの Copilot は、言い方を変えると「高度なマクロ機能」に近いものでした。
- 今開いているファイルを対象に、「この表を要約して」「このスライドを整えて」といった比較的狭いコンテキストで動く
- 単発〜短い連鎖の操作が中心
- タスクの分解や継続的な改善はユーザーが主導
例えば、PowerPointでスライドを作るには、ユーザーが「構成を考えて、スライドを作ってください」と言った後、その返答に満足できなければ「ここを直してください」と何度も指示を出す必要がありました。
新しいエージェント体系
一方、今回発表されたエージェント強化では、パラダイムが根本的に変わります。
範囲の拡大
- 従来:今開いているファイル+近傍のコンテキスト
- 新機能:Web、会議記録、メール、SharePoint ファイル群など、組織全体のコンテキストを活用
タスク性の進化
- 従来:「この表を作る」「この章を要約する」と細かく指示
- 新機能:「○○向けの××資料を作って」とゴールだけ示すと、エージェント自身が必要なステップを考えて自動実行
継続性の向上
- 従来:単発の指示と返答の繰り返し
- 新機能:同じエージェントが何度もやり直して改善、会話ベースで追加指示を受け付ける
「Work IQ」の役割
この背景にあるのが「Work IQ」という新しいコンテキスト層です。会議、メール、ファイルの履歴をまたいで「継続的に文脈を理解してくれる」度合いが大きく上がっています。これにより、エージェントが単なる「その時の指示」ではなく、組織全体の文脈を把握した上で作業を進められるようになりました。
ガバナンス面の大転換:「Agent 365」の登場
今回の Ignite では、UI 機能だけでなく、エージェントを前提にした管理基盤も一気に出ています。
Agent 365 とは
Microsoft Agent 365 は、組織内のすべてのエージェント(Office エージェント含む)を ID ベースで一元管理するコントロールプレーンです。
- 誰が、どのエージェントに、どんなアクセス権を持つのかを管理
- エージェントの可視化とセキュリティ制御
- 監査ログとコンプライアンス対応
Copilot Studio の拡張
企業独自のエージェントが Word/Excel/PowerPoint ファイルを自然文から自動生成できるようになったことで、「業務固有のエージェント」も Office ドキュメント生成エコシステムの一部になりました。
つまり、Microsoftは単に「Officeの中にAIを入れた」のではなく、「AIがドキュメント生成を主導し、人がレビュー・意思決定する」という組織運営モデルへの本格的な変革を本気で推し進めているわけです。
実務への影響:何が変わるのか
業務フロー の根本的な変化
これまで: 人が作成 → AIが補助
textユーザーが企画案を書く
↓
Copilot が誤字脱字を直す、要約を作る
↓
完成
これから: AIが初案を作成 → 人がレビュー・決定
textユーザーが「営業戦略の提案資料を作って」と指示
↓
エージェントが複数の情報源からドラフト作成
↓
ユーザーが内容を確認・修正指示
↓
エージェントが改善
↓
完成
この変化により、資料作成の時間は大幅に短縮される一方で、「何をエージェントに任せるか」「どこまでの権限を与えるか」という判断がこれまで以上に重要になります。
導入フェーズで検討すべきこと
エージェント前提のCopilotが普及する中で、企業の担当者が準備すべきことは以下の3点です。
1. どの業務をエージェントに任すか
全ての資料作成をエージェントに任せるのではなく、戦略的に判断する必要があります。例えば、定型的な営業資料はエージェントに任せられても、経営方針の文書には人間の意思決定を優先するなど、業務種別ごとに基準を設けます。
2. データソースとアクセス権の設計
エージェントが参照できる情報ソース(SharePoint、メール、Web など)と、各ユーザーグループのアクセス権を Agent 365 で細かく管理する必要があります。
3. レビュー・承認ワークフロー
「AI が勝手に作った Excel/PowerPoint」をどうレビューし、誰が最終承認するかというプロセス設計が重要です。
いつから使えるのか:提供スケジュール
Ignite 2025 で発表された機能ですが、実装状況は機能ごとに異なります。
現在利用可能な機能
Word の Agent Mode
- 英語圏ではすでに一般提供(GA)開始
- 他の地域や言語は、段階的なロールアウト中
近日提供予定の機能
PowerPointのAgent Mode
- 先行プログラム「Frontier program」で提供開始
- 一般ユーザーへの展開は 2026 年第1四半期を見込む
Copilot Chat 内の Word/Excel/PowerPoint 専用エージェント
- Microsoft 365 Copilot Business と連動して、2025 年 12 月の GA 開始に合わせて順次提供
日本での対応予定
正確な日本テナントでの提供日程は未発表ですが、一般的には以下のようなパターンで進みます。
- 英語圏での GA(開始済み)
- 主要言語(ドイツ語、フランス語など)への展開
- 日本語・中国語など、処理がより複雑な言語への対応
2025 年末から 2026 年前半にかけて、日本のテナントでも段階的に新エージェント機能が有効化されると見込まれます。
「GA」って何?
ニュースやドキュメントで「GA(一般提供)」という用語が出てきます。これは業界用語として以下を意味します。
- GA = General Availability(一般提供・正式版提供開始)
- プレビューやベータ版を終えて、正式版として一般ユーザーに提供開始した状態
- SLA(サービスレベルアグリーメント)、サポート体制、課金体系が確定し、本番運用が前提の版
つまり「GA」と宣言されたら、「これはもう試験段階ではなく、ちゃんと使い続けても大丈夫」という意味です。
まとめ:エージェント時代への準備は今から
Microsoft が Ignite 2025 で打ち出したメッセージは明確です:「人が資料を作り、AI が補助する時代」から「AI がドラフトを作り、人がレビュー・意思決定する時代」へ。
技術的な進化も重要ですが、それよりも大切なのは「組織として、どう使い分けるのか」という判断です。
エージェント前提のOffice環境が本格化する2026年前半に向けて、以下を今から準備することをお薦めします。
- 自社の業務フローの中で、どの資料作成をエージェントに任せるか
- Agent 365 を使った権限・ガバナンス設計
- AI 生成ドキュメントのレビュー・承認プロセス
これら三点を整理できた企業こそが、エージェント時代における生産性向上を最大限に活かせるでしょう。