VS Code 1.110徹底解説:エージェントプラグインとブラウザ自動化で変わるAI開発体験
VS Code 1.110は、「AIエージェントが前提のIDE」として一段ギアが上がったリリースです。 特にエージェントプラグインと統合ブラウザ連携によって、「エディタ内で完結するマルチエージェント開発環境」にかなり近づいてきました。
VS Code 1.110の概要
VS Code 1.110は2026年2月のInsiders版として公開され、AIエージェント周りの機能拡張が中心のアップデートです。 従来の「チャットで補完してもらうIDE」から、「エージェントがコードを書き、テストし、ブラウザまで操作するIDE」へのシフトがはっきり見える内容になっています。
この記事では、開発者目線で次のポイントを整理します。
- エージェントプラグイン(Agent Plugins)の導入
- 統合ブラウザを使ったブラウザ自動化ツール
- セッション管理とコンテキスト圧縮の強化
- エディタ/ターミナル/言語サポートまわりの改善
エージェントプラグインで「エージェント用拡張」が増殖する世界へ
エージェントプラグインとは?
1.110で追加された目玉のひとつが「エージェントプラグイン」です。 ざっくり言うと、次のような要素をひとまとめにした「エージェント用のプラグインパック」を扱う仕組みです。
- スキル(エージェントが呼び出せる機能)
- コマンド
- MCPサーバー(外部ツール連携)
- 各種フック(挙動カスタマイズ)
設定でエージェントプラグインのマーケットプレイスやパスを追加すると、VS Code内からインストール・更新・有効化ができるようになります。 デフォルトで copilot-plugins や awesome-copilot などのリポジトリが参照されるため、何も準備しなくてもある程度のプラグインを試せる構成です。
なぜエージェントプラグインが重要か
従来は「各プロジェクトでMCPサーバーやスキルをバラバラに設定する」必要がありましたが、エージェントプラグインによって次のような世界観が現実味を帯びてきます。
- 「Next.js開発向けエージェントプラグイン」を入れるだけで、Linter・テスト・デプロイ・ドキュメント検索まで一括で使える
- チーム共通の「社内ツール/API連携込みのエージェントプラグイン」を配布し、全員同じ開発エージェントを使える
AIエージェントを「チーム共有の開発環境」として配布できるようになるので、今後は「エージェントの導入・育成」を含めて開発基盤を設計する動きが加速しそうです。
統合ブラウザ連携:エージェントがブラウザを操作する時代へ
ブラウザ自動化ツールの概要
1.110では、統合ブラウザとエージェントを接続する新しいツール群が導入されています(現時点では実験的)。 設定でブラウザ用チャットツールを有効にすると、エージェントがVS Code内のブラウザタブを自律的に操作できるようになります。
エージェントができることの例は次の通りです。
- ページの遷移、URLの入力
- DOMの読み取り
- スクロール、クリック、ドラッグなどの操作
- スクリーンショット取得
runPlaywrightCode形式でブラウザ操作の自動化スクリプトを実行
さらに、エージェントごとにブラウザのセッションが分離されており、エージェントは明示的に共有されたページだけにアクセスできるようになっています。 プライバシーと安全性に配慮した設計になっているのがポイントです。
どんなユースケースが見えるか?
このブラウザ連携によって、以下のようなワークフローが現実的になってきます。
- 特定のフォームを自動で埋めるエージェント
- 管理画面の状態を読み取り、テストやヘルスチェック的な確認を行うエージェント
- APIドキュメントサイトを開き、必要な情報だけを抽出してコードに反映するエージェント
従来は「人間がブラウザで確認し、エディタでコードを書く」という分離された作業でした。1.110以降は「エージェントがコードを書き、ブラウザで試し、結果を踏まえて再修正する」というループをIDE内で閉じに行く流れがはっきり見えます。
チャットとエージェント体験のアップデート
セッション管理とコンテキスト圧縮
長時間の対話や大規模リポジトリを扱うときに課題になるのが「コンテキスト上限」です。 1.110では、チャットセッションのメモリ管理とコンテキスト圧縮が強化されています。
- Planエージェントのプランがセッションメモリに保存され、途中で雑談を挟んでもプランに戻りやすくなる
- コンテキストが上限に近づくと自動要約で履歴を圧縮しつつ、ユーザー側から
/compactコマンドで任意タイミング・任意の重点を指定して圧縮できる
また、セッションを /fork で分岐させる機能も追加されています。 1つの会話から「別のアプローチを試すセッション」を簡単に作れるため、実験的な分岐を試しやすくなりました。
サブエージェント(Explore)とモデルの使い分け
1.110では、コードベースの探索やリサーチを専用の「Explore」サブエージェントに委譲する仕組みも導入されています。 Planエージェントは高性能モデルで全体の計画を立て、Exploreエージェントは軽量・高速なモデルでリポジトリの解析や情報収集を行う、といった役割分担が前提になっています。
これにより、「重いモデルでずっとチャットする」のではなく、「重いモデルは計画と重要な判断に絞り、軽いモデルで下調べと調査を回す」というマルチエージェント的な構成が自然に組み込まれます。
開発者体験を支える周辺改善
インラインチャットと通知まわり
チャット体験を支える細かい改善も多く入っています。
- インラインチャットUIの刷新(ホバー型表示、エディタ右上への結果表示など)
- テキスト選択の横や行番号横に「インラインチャット開始ボタン」を出せる設定
- チャット回答や確認待ちが発生したときに、OSレベルの通知で知らせる設定
VS Codeを開いたまま別の作業をしていても、「エージェントの処理が終わった」「ユーザーの承認待ちになった」といったタイミングで気付きやすくなりました。
ターミナルの画像対応(Kitty Graphics Protocol)
ターミナルはKitty Graphics Protocolに対応し、ターミナル内で高品質な画像を表示できるようになりました。 設定で画像表示とGPUアクセラレーションを有効にすると、icat のようなツールを通じてPNGなどの画像をターミナルに直接出力できます。
これにより、例えば次のような使い方が想定できます。
- テスト結果やレポートを画像付きでターミナルに表示
- スクリーンショットやグラフ画像をその場で確認
- エージェントが生成した図をターミナルに出力してレビュー
言語サポートや設定まわり
1.110では、言語関連の設定や拡張にも手が入っています。
- JavaScript / TypeScriptの設定が
js/ts.*に統合され、旧javascript.*/typescript.*は非推奨になった - Python Environments拡張が一般提供となり、venv・conda・pyenv・poetry・pipenvなどの環境管理を一元化
- GitコミットにAI共著者を自動で付与する設定(
git.addAICoAuthor)が追加された
特にPython環境の管理は、これまでサードパーティの組み合わせで頑張る必要がありましたが、VS Code側でかなり面倒を見てくれる形になってきています。
VS Codeはどこへ向かっているのか?
VS Code 1.110を一言でまとめると、「VS CodeがマルチエージェントIDEとしての骨格を固め始めたバージョン」です。
- エージェントプラグインで「エージェント自体を配布・共有する」土台が整い
- 統合ブラウザ連携で「コード → 実行 → 検証」のループをIDE内で閉じに行き
- セッションメモリやコンテキスト圧縮で「長く付き合えるエージェント体験」を支え
- 言語・ターミナル・通知などの細部が、エージェント前提のワークフローに最適化されてきています
今後は「MCPサーバーや社内システムと繋がったエージェントプラグインをどう設計するか」が、普通の開発基盤設計の一部になっていくはずです。 1.110は、その未来にかなり踏み込んだアップデートだと言えるでしょう。
公式リリースノート「February 2026 (version 1.110)」日本語解説
ここからは、公式リリースノートの内容をできるだけ原文に忠実に日本語で整理したセクションです。
このリリースの狙い
このリリースのテーマは、長時間・複雑なタスクでもエージェントを実用レベルで使えるようにすることです。 そのために、次のような点が強化されています。
- エージェントの挙動を細かく制御・可視化できる仕組み
- エージェントの拡張性(プラグインやブラウザ自動化)
- セッションメモリやコンテキスト圧縮による「長く続く対話」への対応
- アクセシビリティやチャットUI、ターミナル画像対応などの体験改善
Agent controls(エージェント制御)
- 背景エージェントに
/compactなどのコマンドが追加され、会話履歴を手動で圧縮したり、セッションに名前を付けたりできるようになりました。 - Claudeエージェントは、途中でのステアリング、リクエストキューイング、コンテキスト表示、
getDiagnosticsツールなどが追加され、対話やデバッグがしやすくなっています。 - Agent Debugパネル(プレビュー)が追加され、チャットイベント、システムプロンプト、ツール呼び出し、ロードされたスキルやフックをリアルタイムに可視化できます。
/autoApprove(別名/yolo)と/disableAutoApproveが導入され、ツール実行の自動承認を切り替え可能になりました。- Editモードはデフォルト非表示となり、Askモードはカスタムエージェント定義に置き換えられています。
askQuestionsツール(質問カルーセル)がコアに統合され、Alt+N / Alt+P で質問を移動できるようになりました。- チャットリクエスト中はOSの自動サスペンドを抑止するよう、VS CodeがOSに依頼するようになっています。
Agent extensibility(エージェント拡張性)
- エージェントプラグイン(実験的)が導入され、
chat.plugins.enabledなどの設定で、スキル・コマンド・MCPサーバー・フックを束ねたチャットカスタマイズをプラグインとして扱えるようになりました。 - Extensionsビューで
@agentPluginsを検索したり、「Chat: Plugins」コマンドからプラグインを管理できます。 - 統合ブラウザ用のエージェントツール群(実験的)が追加され、ページ遷移、DOM読み取り、スクリーンショット取得、クリック・ドラッグなどの操作、Playwrightコード実行が可能になりました。
- チャットから
/create-prompt/create-instruction/create-skill/create-agent/create-hookを呼ぶことで、会話内容から各種カスタマイズファイルを生成できます。 usagesツールが強化され、renameツールが追加されて、LSPベースでの参照検索・リネームが可能になっています。
Smarter sessions(より賢いセッション管理)
- Planエージェントのプランがセッションメモリに保存され、会話を跨いでもプランを継続利用できるようになりました。
- コンテキスト上限に近づくと自動で履歴が要約され、
/compactコマンドで手動圧縮も可能です。 - Exploreサブエージェントが導入され、Planエージェントがコードベースの探索やリサーチを専用エージェントに委譲します。
- あるセッションがファイルを編集した場合、そのファイルに対する後続のインラインチャットは同じセッションにひも付けられるようになりました。
/forkや「Fork Conversation」からチャットセッションを分岐でき、履歴をコピーした新しいセッションを簡単に作成できます。
Chat experience(チャット体験)
- モデルピッカーが刷新され、Auto・注目+最近使用・その他モデルという3セクション構成になり、コンテキスト長や機能などの詳細をホバーで確認できるようになりました。
chat.tips.enabledを有効にすると、まだ使っていない機能に絞ったコンテキストチップがチャットビューに表示されます。chat.agent.thinking.phrasesによって、モデル思考中の表示テキストをカスタマイズできます。chat.tools.terminal.simpleCollapsibleにより、ターミナルツール呼び出し時の出力を折りたたみヘッダで表示できるようになりました。chat.notifyWindowOnResponseReceivedやchat.notifyWindowOnConfirmationの設定で、チャット結果や確認待ちをOS通知で受け取れます。inlineChat.renderModeとinlineChat.affordanceで、インラインチャットの表示スタイルや起動UIを細かく制御できます。
Accessibility(アクセシビリティ)
- アクセシブルビューで思考内容のON/OFFを切り替えるショートカット(Alt+T)が追加されました。
- 質問カルーセルのスクリーンリーダー対応が強化され、「Question 1 of 3」のような読み上げが行われます。
- チャット質問・確認時にサウンドとOS通知でユーザーに知らせる仕組みが追加されています。
- TODOリストとチャット入力間のフォーカス切替ショートカット(Ctrl+Shift+Tなど)が追加されました。
- Alt+F1で検索・フィルタダイアログのアクセシビリティヘルプが表示されるようになっています。
- Quick Input(Go to Lineなど)のスクリーンリーダー対応も改善されています。
Editor / Terminal / Languages など
- モーダルエディタ(実験的)が導入され、設定やキーボードショートカット、プロファイル、AI/モデル管理、ワークスペース信頼などを、タブレイアウトを崩さずにモーダルとして表示できるようになりました。
workbench.notifications.positionで通知位置(右上・右下・左下)を選べるようになりました。- 設定エディタで、チャット関連設定がトップレベルに分離され、実験的設定は各セクションの末尾に移動しています。
- Kitty graphics protocol対応ターミナルで、PNGや24/32ビット画像のレンダリングやスケーリング、ベース64転送などがサポートされています。
- 外部ターミナルとしてGhosttyを指定できるようになり、ワークスペースフォルダ選択付きで外部ターミナルを開く機能も追加されています。
- ターミナルサンドボックス(プレビュー)が改善され、信頼済みドメインベースの制限やmacOSでの容易なセットアップが提供されています。
- JavaScript / TypeScriptの設定が
js/ts.*に統一され、旧設定は非推奨扱いになりました。 - Python Environments拡張がロールアウトし、各種Python環境を一つのUIから管理できるようになりました。
git.addAICoAuthorによって、チャットやエージェントの利用に応じてコミットにAI共著者トレーラーを自動付与できます。
エンジニアリングと非推奨
- VS Code本体とビルトイン拡張の開発・ビルド基盤がTypeScript+Goとesbuildベースに移行し、ビルド時間が短縮されています。
- Editモードは1.110で正式に非推奨となり、1.125で完全削除が予定されています。
Hooksがもたらす「運用レベルの制御」
個人的に一番おもしろいのは、エージェントに対して「プロンプトではなくフックで殴る」設計が入ってきている点です。 Hooksは、エージェントセッションのライフサイクル(SessionStart / UserPromptSubmit / ToolCall / Stop / PreCompact / SubagentStart など)のタイミングで、決め打ちのシェルコマンドやスクリプトを確実に実行できる仕組みになっています。 これにより、
- 危険なターミナルコマンドを検知してブロックする
- セッション開始時にプロジェクト情報やガイドラインを自動注入する
- セッション終了前にテスト実行やフォーマットを必ず走らせる
- SubagentStart/Stopでサブエージェントの挙動を監査・制御する
といった「運用ガードレール」を、LLMの気分ではなく 決定的な処理 として差し込めるようになります。
プロンプトやinstructionsが「教育」だとしたら、Hooksは完全に「門番と監査ログ」の側で、エージェントをプロダクション環境に近づけるための最後の一段になりそうだと感じています。