VS Code 1.112におけるAIエージェントの進化
VS Code 1.112 は 2026年3月18日公開で、全体としては AIエージェントをより自律的にしつつ、安全性とトラブルシュート性を強化したアップデートです。記事の構成は、Agent experience / Agent extensibility / Developer experience / Terminal / Deprecated features and settings / Notable fixes / Thank you の7セクションです。
まず前提として、Copilot CLI session は VS Code から管理できるバックグラウンド型のエージェント実行で、ローカルマシン上で独立して動き、VS Code を閉じても継続できるのが特徴です。今回の「Agent experience」の多くは、このバックグラウンド運用を現実的に使いやすくする改善だと見ると理解しやすいです。
1. Agent experience
Message steering and queueing in Copilot CLI
実行中の Copilot CLI セッションに対して、途中で追加メッセージを送り、進行中の処理の方向修正や次の指示の予約ができるようになりました。長いタスクを走らせたあとに完全に終わるまで待つのではなく、途中で「その方針ではなくこちらで」「終わったら次にこれも」という運用がしやすくなります。
Preview changes before delegating to Copilot CLI
未コミット変更がある状態で Copilot CLI に引き継ぐとき、Chat view 上で 保留中の変更一覧を見ながら、それらを worktree に コピーする・移動する・無視する を判断できるようになりました。実務上は、手元の作業差分を誤って混ぜたり、必要な変更を渡し忘れたりする事故を減らす改善です。
Clickable file links in Copilot CLI terminal output
Copilot CLI が出力した ~/.copilot/session-state/ 配下のパスを VS Code が正しく認識し、クリックでファイルを開けるようになりました。絶対パスと相対パスの両方を扱えるため、エージェントが触ったファイルにすぐ飛んで確認する流れがかなり自然になります。
Permissions levels in Copilot CLI
Copilot CLI 側にも権限レベルが入り、Default Permissions / Bypass Approvals / Autopilot を選べます。意味としては、確認ダイアログを都度出す慎重運用から、自動承認でほぼ放置実行する運用まで選べるようになった、ということです。特に Autopilot は Insiders で既定有効で、質問への自動応答まで含めて完了まで進める設計です。
/troubleshoot(Preview)
新しい /troubleshoot スキルは、エージェントのデバッグログを会話内で解析して、なぜそのツールが使われたか、なぜ指示やスキルが効かなかったか、なぜ遅かったかを説明してくれます。AI が思った通りに動かないときの「原因調査を AI に手伝わせる」機能で、かなり実務的です。
Export and import agent debug logs(Preview)
Agent Debug Logs を エクスポート/インポートできるようになりました。これにより、当人の VS Code セッション内だけで見るのではなく、チーム内共有やオフライン解析がしやすくなります。エージェント運用を個人の勘ではなく、再現可能な検証対象に近づける改善です。
Image and binary file support for agents
エージェントが 画像ファイルを直接読み取り、さらに バイナリファイルも hexdump 形式で扱えるようになりました。スクリーンショット解析やバイナリ確認のような、従来はテキスト中心のチャットでは扱いづらかった場面に対応した更新です。画像カルーセル表示は Experimental です。
Automatic symbol references
クラス名・関数名・メソッド名をコピーしてチャットに貼ると、自動的に #sym:Name 形式のシンボル参照として渡されます。これは単なる文字列ではなく、エージェントに「コード上のその定義」を明示できるので、文脈解釈ミスが減り、応答が速く正確になりやすい改善です。
2. Agent extensibility
ここでいう MCP は Model Context Protocol のことで、AI モデルを外部ツールやサービスにつなぐためのオープン標準です。VS Code では、MCP サーバーがファイル操作、DB、外部 API などのツールをエージェントへ提供します。今回の更新は、この拡張性を強めつつ、同時に安全性も上げています。
Customizations discovery in parent repositories
モノレポでサブフォルダだけ開いている場合でも、設定を有効にすると 親リポジトリ側の copilot-instructions.md、AGENTS.md、CLAUDE.md、skills、hooks などを見つけられるようになりました。つまり、プロジェクト全体の AI ルールや役割定義を、各パッケージに重複配置しなくてよくなります。適用には、親に .git があることや Workspace Trust が有効なことなど条件があります。
Sandbox locally running MCP servers
ローカル MCP サーバーは通常、ユーザーと同等権限で動くため、不要なファイルやネットワークへ触れうるリスクがあります。1.112 では macOS / Linux でローカル stdio MCP サーバーを sandbox 化でき、必要なフォルダやドメインだけ追加許可する方式になりました。かなり重要なセキュリティ強化ですが、Windows はまだ非対応です。
Improved UI for MCP elicitation
MCP サーバーが追加情報を求めるフォームの UI が、VS Code の Ask Questions と同じ見た目に揃いました。派手さはありませんが、MCP の導入が進むほど「どの入力が VS Code ネイティブで、どれが外部サーバー由来か」がわかりにくくなるので、体験の一貫性を高める意味があります。
Enable or disable plugins and MCP servers
これまでは実質的にインストール/アンインストールで切り替えていたものが、無効化/有効化で扱えるようになりました。しかも グローバル単位とワークスペース単位の両方で制御できます。試験導入や、案件ごとの安全な切り分けに向いた改善です。
Automatic plugin updates
プラグインが extensions.autoUpdate に従って自動更新できるようになりました。ただし npm と PyPI 由来のプラグイン更新は承認が必要です。新しいコードがローカルで実行されうるためで、利便性と安全性のバランスを取った設計と言えます。
3. Developer experience
Integrated browser の位置づけ
統合ブラウザは、VS Code の中で Web ページを開いて操作できる機能で、プレビュー、認証フロー確認、AI チャットへのページ要素追加などに使えます。公式ドキュメントでは現時点で experimental とされています。
Debug web apps with the integrated browser
今回の目玉の一つです。統合ブラウザ内でそのまま ブレークポイント、ステップ実行、変数確認ができるようになり、外部ブラウザへ出ずに VS Code 内で完結しやすくなりました。editor-browser という新しい debug type が追加され、既存の msedge や chrome 設定から比較的移行しやすい作りです。
Integrated browser UX improvements
右クリックの コンテキストメニューが増え、コピー・貼り付け・新規タブ・inspect などの基本操作がしやすくなりました。また、ブラウザのズームが VS Code 全体とは独立し、サイトごとにズーム状態を記憶できます。統合ブラウザを「ちょっと見られるビュー」から「実用ブラウザ」に近づける改善です。
Auto-close Find dialog after searcheditor.find.closeOnResult を使うと、検索ヒット後に Find UI を自動で閉じてエディタへフォーカスを戻すことができます。地味ですが、キーボード中心で編集する人には効く改善です。既定ではオフです。
4. Terminal
Improved IME composition for the terminal
ターミナル右端で日本語など IME 入力中、変換中テキストがはみ出す問題が改善されました。プレビューは右端内に収まり、入りきらない古い文字が順に隠れる挙動になっています。日本語入力ユーザーには体感差が出やすい改善で、Windows では terminal.integrated.windowsUseConptyDll を有効にするとより良いと案内されています。
5. Deprecated features and settings
New deprecations in this release
新規の廃止予定は なしです。
Upcoming deprecations
ただし Edit Mode は 1.110 で正式に非推奨になっており、chat.editMode.hidden で一時的に再有効化できるのは 1.125 まで、1.125 以降は完全削除予定です。Edit Mode に依存している運用があるなら、今のうちに移行前提で考えたほうがよいです。
6. Notable fixes
今回の代表的な修正は、新しめの fish + kitty keyboard protocol 環境で ^C が終了として効かない問題の修正と、2つの拡張による Python 拡張の二重・三重アクティベーション防止です。対象者は限られますが、刺さる人には大きい類の修正です。
まとめ
今回の 1.112 を一言でいうと、VS Code を「コードを書くエディタ」から「エージェントを安全に運用し、Web まで含めて検証する開発環境」へさらに寄せた更新です。特に恩恵が大きいのは、Copilot/agent を本格運用している人、モノレポ運用のチーム、フロントエンド開発者、日本語 IME でターミナルを多用する人です。逆に、AI 機能をほとんど使わない人にとっては、統合ブラウザのデバッグと Find/IME 改善が主な見どころです。これは今回の機能構成から見た実務上の整理です。